2013年11月17日日曜日

0から始める者に勇気を与える 『ローマ法王に米を食べさせた男』

ローマ法王に米を食べさせた男  過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?
【単行本】ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?
【Kindle版】ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?

「今みたいな時代にも、こんな改革が可能なんだ」と衝撃を受ける。
この本の中で語られている嘘みたいな「村おこし」はまるで昭和だ。誰も知らなかった過疎の村が、全国区のブランド村になってしまうのだから。まるでプロジェクトXみたい。「村おこし」的なものはすでにどの自治体でもやりつくされていると思っていたのだが・・・。いやいやどうして、これは現在進行形の改革なのだ。


著者は役人。前の上司とはソリが合わず、「おまえみたいなヤツは、農林課に飛ばしてやる!」と怒鳴られる(そして本当に飛ばされる)ところからこの本はスタートする。村は補助金頼みの絶望的な過疎の状態なのだが、「手をこまねいたまま、座して、この集落がなくなるのを待つんですか?」と著者はあきらめず、見事に村の米をブランド化し、直売を成功させ、人の交流も起こし・・・、というストーリーが臨場感たっぷりに描かれている。

この本で登場するのは、アイデアをひねり出すこと、抵抗勢力を説得すること、とにかく行動してみること、既存の枠組みを疑うこと、時にちょっとだけルールを無視すること、等々。痛快で、したたかで、人情に溢れており、知的だ。

それにしても前半、前の上司の悪口がズバズバでてきて、この人、公務員なのに大丈夫かな?と思うほどハッキリものを言う。前の上司を指して、
彼(※引用者注:前の上司)にとって農林水産課は役所内では下の下。クズ職員が行くものと思っていたのです。
などと書く。こんな冒頭では、読者は自然と著者に肩入れしたくなってしまう。実にうまく感情を刺激する。

この力は、さまざまな場面で著者を助ける。

人口の半数以上が65歳以上の「限界集落」では、新しいことを始めるにも「誰がその責任を取るんだ」という話がすぐに出てくるようだ。その抵抗にも著者はめげない。何十回も会議を開いて持久戦に持ち込んだり、有力者に根回しして空気を変える発言をしてもらったり、若い学生を入れて親子のような交流させたり、いかに人々の意見を変え、まとめていくかということに感情を揺さぶる血の通った、かつ冷静な戦略があり、とてもしたたかだ。

これに「思いついたら即実行する」という行動力が加わって、「年間予算60万円」という崖っぷちの状態から、見事に成功を手にする。

「何回も失敗しましょうよ。失敗しない限り、うまくいきませんよ」

この本を読んだ後では、いかなることでも成し遂げられない言い訳は通用しなくなるだろう。やる前から無理に決まってるとタカをくくる者を叱り飛ばし、視野が狭くなっている者に顔を上げるようにささやき、0から何かを始めようとする者の感情を揺さぶり勇気を与えるはずである。



ローマ法王に米を食べさせた男  過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?
【単行本】ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?
【Kindle版】ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?



2013年11月4日月曜日

人間というものがよくわかる 『スタンフォードの自分を変える教室』

スタンフォードの自分を変える教室

スタンフォードの自分を変える教室(単行本)
スタンフォードの自分を変える教室(Kindle版)

人間の「意志力」とはなんとはかなく、もろいものか。
ダイエットの決意も、勉学の決心も、3日も続けばいい方で、時間がなかったりどうしようもなく気分が落ち込んだり、他者からの断れない誘いであったりで、ともかく無数の言い訳とともに崩れ去る運命にあるのだ。
しかし、この著者(2010年にフォーブス誌「人びとを最もインスパイアする女性20人」の一人)は、そういった「欲望に負けてしまう人間」に対して「それは人間らしさである」、と非常に肯定的だ。この本の主題は、「意志力」なのだが、おいおい、そんなことで意志力の授業に、それも「自分を変える」と銘打つだけの内容になるの!?と思わせるほどだ。

しかし、「意志力=人間のどうしようもない欲望に打ち克つ力」という図式を、この本全体を通して、著者は壊してくれる。そして、新しい図式を示す。

「意志力=人間のどうしようもない欲望を、知り・観察する力」であると。

では、人間の欲望には、どのような種類があるか?そしてどんな罠に私たちは毎回ひっかかってしまっているのか?ということについて、著者は、心理学、経済学、神経科学、医学の分野の豊富な実験事例を引き合いに出して、解説し、読者を鼓舞し、シンプルな意志力のエクササイズにまで落とし込んでくれている。精神論でなくて、あくまでも人間への深い観察からみちびかれた「意志力のコツとエクササイズ」だ。

これで人気が出ないはずがない。

NYタイムズや、タイムで絶賛され、本書は世界的ベストセラーになっている。(原題は「The Willpower Instinct Based on the Wildly Popular Course of Stanford University」


興味深いトリビアとしては、、
  • サラダを見るとジャンクフードを食べてしまう
  • ダイエット中は浮気をしやすくなる
  • 脳はエネルギーをお金のように使う
  • タバコの箱に書かれた警告表示はかえって喫煙者の喫煙を促進する
  • 「やることリスト」がやる気を奪う
  • テクノロジーほど脳に強烈な依存症の効果をもたらしたものはない
  • 人はドーパミンが大量に放出されると、ほしくなったものを何が何でも手に入れなければ気がすまなくなる
  • ある程度のお金が確実にもらえるより、大金をもらえる可能性があるほうが興奮する
  • 自分を責めるよりも、自分への思いやりをもつほうがずっとよい戦略

などなどだ。

“つまるところ、欲望じたいはよくも悪くもありません。大切なのは、欲望によって自分がどこへ向かおうとしているのか、そしてどういうな場合なら欲望に従ってよいかを見きわめられるかどうかなのです”

あゝ、なんと人間らしさについて描かれた本であることか。これらの人間の欲望のメカニズムについて知っているか・知らないかが、あなたの目標達成におおきな影響を与えることは間違いないだろう。
休日にじっくり読んでみてはいかがだろうか。

スタンフォードの自分を変える教室
スタンフォードの自分を変える教室(単行本)
スタンフォードの自分を変える教室(Kindle版)